こんにちは
今日は今日はSIVGA様よりレビュー依頼いただきましたヘッドホンPHOENIXのレビューです。レビュー記事は長いので短く結論を知りたい方はindexから気になる部分と結論のみご覧いただければ幸いです。
■結論(Abstract):A40K Tier2 参考価格:40,000円
PHOENIXは今までありそうで無かったモバイル可能かつリスニング用途、そして開放型、ラグジュアリー、鳴らしやすいというコンセプトを持ち、音質も高いクラスまで纏められたヘッドホンです。斬新なコンセプトでありながらヘッドホンとしての音の完成度も高い上にビルドクオリティなどコンセプトに必要な最低限の要素をクリアしています。スマートフォン直刺しでも高音質となるとこの価格帯では他に目立った競合も見当たらず、このコンセプトのヘッドホンを探している方はPHOENIX一択と言って良いほどオススメできます。試聴された方でイマイチと感じた方で高出力なDAPを使われている場合は、Appleの3.5mmアダプタなど低出力な環境で聴きなおして欲しいと感じるほどに素晴らしいヘッドホンです。
■動機付けなど
白状しますとSIVGA様からレビュー依頼を受けて初めて同社を知りました。ヘッドホン自体の方はAmazonの商品リンクやTwitterのタイムラインなどで見かけたりすることはあっても会社名を意識するまでは無かったのですが、今回の提案を受けた際に評判の良いという噂のこのヘッドホンであれば受けて見たいという気持ちになり受けてみました。
というのもイヤホンと異なり開放型数万円のミドルクラスの有線ヘッドホン市場は数年前から優秀な定番機が幾つも犇めき合っている過酷な市場です。新商品自体が少なく、イヤホンの様な市場の拡大が無いことで、過去のレッドーシャンを勝ち残った猛獣クラスのヘッドホンがさらに価格競争を繰り返しています。特に有名メーカーでも定番の名機がコストパフォーマンスに振り切った機種に変貌を遂げた恐ろしい市場です。その最たるものがAKG K701、K702やSENNHEISERのHD599シリーズ等で、これらは1万円台で購入できる割に圧倒的に高音質です。また、価格をSIVGA PHOENIXと同等の価格帯に伸ばせばAKGはK712、SENNHEISERはHD600と言った音質で言えばかなり高いレベルの名機が手に入ります。
実際Amazonを見てもこれらの名機はかなり廉価に購入できますね。
これらは大手ということもあり商品の供給もさることながらサポート体制も強く、自分の中ではよっぽどな理由がなければこれらを選べば無難だという認識です。そこを踏まえてSIVGA PHOENIXが「これら名機を押しのけてまで選ばれる必然性や理由があるのか?」という単純な疑問に対して回答を得たいと考えたからです。
勿論結果として選ばれている理由もSIVGA PHOENIXの素晴らしさも理解できたので今回のレビュー機会は幸甚の至りでした。
■SIVGAとは
どうやらハイエンドヘッドホンメーカーのSendy Audioの手頃な価格向けのブランドがSIVGAの様です。私が無知だっただけで現在まで20年以上ヘッドホンの設計に携わっているエンジニアによるブランドで、最近できたような新興メーカーではないようです。
実際にヘッドホンをレビューしてみても細部にわたるヘッドホンの仕様が考え抜かれており、使い手としてコストとサウンドのバランスの果てにたどり着いたと考えるとほぼ非の打ちどころがありません。
■SPECとか
公式サイトを見ていただくのが確実ではあるのですが代表的画像をピックアップするとこの画像に集約されているかと思います。
上記が公式サイトです
ポイントは何と言っても鳴らしやすさで32Ω、感度103dBというのは例えばK702の63Ω、感度93dBと実に10dB以上音量が取りやすいです。
実際に仕様してみた感触としてもM17やBTR7などの専用アンプは全く不要でPCのヘッドホンジャックに直刺ししても十分な音量と音場感が得られます。この辺りは実際に持ち歩いて様々な機材で使用してみたのですが音量などが不足するということはありませんでした。
■付属品とか本体とか
〇開封体験
最近SENNHEISERのHD600を買った身としては圧倒的に素晴らしい開封体験に驚きを隠せませんでした。
まず第一にヘッドホンの箱です。一般的なヘッドホンの大きさのケースですがこのクラスとしてはかなり高級感がある上質な紙材をつかった箱です。厚みがあり強度があり湿度や輸送での衝撃からしっかり守られていることがわかります。
箱にコストをかけるなら本体や音質にかけて欲しいという気持ちもわからないでも無いですが、最近のSENNHEISERなどの箱は簡素化を重ね過ぎてもはやチープの域に達しています。やはり4万円というそこそこ高いコストのヘッドホンを買った人達への開封体験としては最低限度の開封体験は欲しいものです。実際に業務用ではない高級ヘッドホンに関しては箱を残す人も多くその点、SIVGA PHOENIXはサイズ感や質感などかなり優秀です。
次に開封時ですが箱を開けると同時に箱の隙間から木材の心地よい香りが溢れ出てきます。部屋に広がる木の薫りがしっかりと防湿されているということを理解させられると共に目には上質な皮材に包まれたケースが飛び込んできます。
ケースはかなり強度がある上に手触りも良くしっかりとヘッドホンを守ってくれることがわかります。K812などでもヘッドホンスタンドと兼ねたヘッドホンを保護する梱包で驚かされましたがこのケースはかなり丈夫なうえに上質です。
もちろんこの値段帯のヘッドホンでもキャリングポーチなどが付いてくることは多いのですがこれらは実際に輸送してみるとヘッドホンにダメージが出ることが容易に理解でき、実際の持ち運びにはかなり気を遣うことになります。PHOENIXのケースはその点頑丈でちょっとやそっとの力では変形しない強度を持ったものです。ケースのファスナーもしっかりした大きく太いものを採用しており、開け閉めもスムーズです。
このケースであればどこに持ち運んでもお気に入りの音楽を楽しめるとう確信が持てるそんな開封体験です。
〇筐体
筐体の周りは写真ではウッド調なだけでプラ筐体のハウジングかと思っていたのですが木の香りがすることも相まって実際の木を使っている様です。木ではあるのですが強度が高く、樹脂などで補強されたタイプなのかもしれません。Gradoなどの競合の木を使ったハウジングは脆いことが多いため気になったのでわざとぶつけたり傷がつくような行為をしてみたのですがかなり丈夫で傷がつきません。実際に持ち出して使うことを想定するとちょっとやそっとでは傷つかないことは使い勝手に大きく有利で、丈夫なキャリングケースが付くことも考えればかなり筋が通った設計です。
筐体の外側は開放型の設計でメタルメッシュになっています。実際にドライバの外部側が見えているのかと思っていたのですが目を凝らしてみても見えず、どうやら紙のような素材で覆ってあるようです。このため実際開放型なのでかなり音漏れが多いだろうという先入観があったのですがそれほど大きな漏れではありませんでした。もちろん音量としては結構な音量で大体内側に対して7割ぐらいの音量が漏れているイメージです。
フレームは金属性で金属のしなりだけで頭への側圧を与える設計の様です。つまりばねの要領で頭のサイズが小さければ側圧は小さいですが大きいと比例して側圧が強くなってしまいます。それでもかなり頭が小さいことを想定するような設計で無負荷の状態では完全に閉じるまで力がかかっています。このため側圧が強いと感じる人は多いかもしれませんし、実際にこの状態で使ってみたところ数時間すると側圧で耳の周辺が痛くなってきましてこれは自分には使えないなと言う気持ちになってしましました。
ただし非保証にはなるのですが、この金属のばねは逆方向に力を入れてやるとしなりの強度を変更してやることができます。自分は自然にしてもこのぐらいの幅でヘッドホンが開くまで調整しました。
ここまでくるとかなり側圧は緩く、その後使っていますが長時間付けても側圧で困るようなことは無くなりました。もちろんこの状態でも閉じることが可能でヘッドホンケースに仕舞えます。
また、ハウジングは縦方向に10度程度前後に30度程度の自由度があるのでかなり自由度は高いヘッドホンになるかと思います。前後の自由度までできるヘッドホンは少ないのでかなり多くの方にフィットするのではないでしょうか。
前後の可動域は個人的にポイントが高く、側圧で疲れてきたと思った時でもこれを回転させることで装着感の改善を測れます。
ヘッドバンドは上質な皮素材になっており、こぶの様な突起が見えるのでK701シリーズのコブを思い起こす人もいるかもしれません。実際にはAKGのものよりかなり柔らかい合皮素材が使われており、適度な摩擦もあるため上下に滑ることも少なくかなり快適でした。勿論この点は髪質などの個人差はあるかもしれませんが、自分は家事をしながら使ってみるなど上下に頭を振るような使いかたをしてみましたが使っていても滑ることはありませんでした。ちなみに自由度としては最小だと最大の差はこのぐらいです。
ただここの留めている部分がどうも摩擦だけで止まっている感じなのでこの部分の耐久性は少しだけ不安です。ただその留め金は★型の特殊ネジがあれば開け閉めが可能なので素人でも調整は可能そうです。
〇イヤーパッド
パッドの内側はRLの表記が分かりやすく書いてあります。メッシュのすぐ内側は樹脂のカバーがされているので内側の触り心地は良い物の耳に長時間当たると少し痛みがでるかもしれません。イヤーパッドの外周はやわらかい合皮素材のようです。かなり柔らかく手触りが良く低反発とまでは言いませんが反発力も小さく接触しても快適です。気になるのはイヤーパッドの耐久性ですがここばかりは使い込んでみないとわからない点だとは思いますが1か月ほど使った感じではへたりなどは無く長持ちしそうな雰囲気があります。また、交換パーツがあるかをメーカーのサイトを調べてみたのですが不明でしたのでSIVGAに問い合わせてみると、Amazonなどでは取り扱いは無いのですがAliExpressの公式ストアでの取り扱いがあるとのことです。
価格も3000円程度+送料1000円(2022.10.21現在)とある程度リーズナブルです。ヘッドパットの交換の仕方についても動画でわかりやすく解説してあるのでこの点はかなり安心できます。実際動画との通りに外れるか確認すると簡単に外してドライバを拝むことができました。
〇ケーブル
ケーブルは黒色の布製1.5mでコネクタは2.5mmの2極左右両側、ジャックは3.5mmの3極タイプです。6.3mmは3.5mmからの変換ジャックが付いており、見た目としては十分高級感があります。ケーブルが断線しやすい3.5mmジャック側は細かな心遣いとしてバネの保護材が付けてあり耐久性に安心感があります。ヘッドホン側のコネクタ部は左右のドライバから線が繫がる両出しタイプです。とここまでは良いのですが付属するケーブルの品質はお世辞にも良くは無くこの価格帯のクラスとしては最低限度の物が付いていると考えた方が良さそうです。
具体的にはまず使い勝手的な面でタッチノイズが大きいことです。ケーブルに触れるだけで「ガサガサッ」という大きな音がヘッドホンを伝って耳に聴こえてきます。リラックスしてリスニングしているときにこのタッチノイズは興が削がれる方も多いかもしれません。もちろんこのタッチノイズ大きさは競合製品と比べても大きく気にならないという方以外は交換を前提とした方が良いかもしれません。
音色についても数千円クラスの社外ケーブルに変えるだけでも音質の変化を感じやすいかと思います。この辺りは競合クラスのSENNHEISERやAKG製品も標準ケーブルでは音色としての品質が酷いことは有名ですので同等と言って良いかもしれません。この点についてはケーブルの違いについての音の違いを感じる敏感なタイプの人とあまり変化を感じない人もいますのである種合理的な判断なのかもしれません。
同様にSIVGAに問い合わせてみたところアップグレードケーブルなども取り扱いがあるようです。ただ値段は16000円(2022.10.21現在)からとかなり高額なラインナップです。
私は2.5mmMonoオス端子toMMCXメス端子のコネクタを自作してmmcxケーブルを色々と試聴してみましたが、このタイプのケーブルは他社でも採用が多いので比較的社外品も手に入りやすいと思います。特に音質目的でなくとものでケーブルを交換したりすることも容易です。
尚、ケーブル長がHD600シリーズなどと異なり1.5mなのはポータブルするラグジュアリーヘッドホンという使い方を考えた時にはかなり合理的な判断だと思います。
〇モバイルケース
既に少し説明していますがかなり上質なケースが付いています。地味にうれしいのが直立するように足が付いていることで何気にケースは場所を取ったりするのでうれしい機能です。
ちなみにかなり頑丈で手で触った感覚でも厚みとして5mm以上あるように思います。高級ヘッドホンではどこで持ち運ぶのか?っという鳴らしずらい仕様と巨大なケースが付いていることがありますが、これならば丈夫な上に鳴らしやすいのでどこにでも持ちだると感じます。
〇付属品
その他の付属品はケーブルを入れるための小さい布のポーチが付いています。コネクタ部分の金属は振動などで接触すれば傷になったりしやすいこともありケースがあっても良い心使いだと思います。また6.3mmの標準ステレオジャックは小さく無くしやすいこともあってここに仕舞っておけばいざと言うときも安心です。
個人的にはヘッドホン側のケーブルは指したまま上手くケースに仕舞えたりすると便利ではあったのですが相当工夫しなければコネクタ部分に負荷がかかるのでこの設計で正解だと思います。
〇装着感
個人的には良好ですが気になったのは自分の耳のサイズでは耳の外側の一部だけが接触してしまうので長時間付けているとその部分が痛くなってしまいました。私の耳は客観的にかなり大きいサイズなので全員が当たるとは思えませんが、耳が大きい人は注意がいるかもしれません。
また、若干蒸れやすい点は少し気になりました。イヤーパッド内の体積が大きくないことに加えてイヤーパッドの周囲が革で封鎖されているため空気が籠りやすいのかと思います。音色は聴き疲れしにくいのにこの点は勿体ない設計だと感じました。
〇その他、総評
全体としてラグジュアリーで高級感があるヘッドホン設計でありながらヘッドホンをモバイルするために重要な全てのアクセサリーが揃っており、付属品やスペックとしては大手に劣るどころか上回る品質を持っていると感じました。
実際にレビューの為に様々な場所に持ち歩いてみたのですが嵩張らないばかりか安心して持ち運ぶことができました。HD600シリーズやK701シリーズでは得られない圧倒的コンパクトが得られます。実際最初に触った感じとしては前述の機種が競合として思い浮かんだのですが、完全に持ち運び用に特化した構成で使った実感として競合機種はAudioTechnicaのR70xやAustrianAudioのHi-X65などの開放型のモバイルタイプです。とは言えこれらの機種はどちらかというとモニター用の音作りであったり、モバイル用と言ってもこれらは簡単なポーチが付いているだけなので実際に持ち運んだ身としては輸送でのダメージは常に心配するところでした(もちろんちょっとやそっとで壊れるような造りにはなっていないと思いますが)。そういう意味では感度や鳴らしやすさも含めると全く同じ競合になる機種は存在しないように思います。
そして新興メーカーであれば音作りはちゃんとできても細部のパーツの選定や耐久性などのヘッドホン全体として理念みたいなものが一貫していないことが多いのですが、長年ヘッドホン開発に携わっていたSIVGAの開発者がユーザー支店の細かい点も見越した一貫したモノづくりをしたのだと理解させられました。
■音質について
〇想定競合機種
PHOENIXのコンセプトは「開放型、モバイル、低インピーダンス、リスニング」と捉えると直接の競合機種は見当たりません。据え置き用途とすればHD600やK712、モバイル開放型としてはR70xやHi-X65等が浮かびますがインピーダンスや想定用途なども異なります。一番近い仕様としてはHi-X65など22Ωと別売の4000円のキャリングケースを使えばリスニングにも使えますのでデザイン以外は一番近いのではないかと考えています。ただ値段も6万円近くなり1.5倍程度高くなってしまいますのでその際にはその点を音質などから割り引いて考える必要があるかと思います。
いずれにしても上記に名前を挙げた機種あたりを想定してレビューは記述したいと考えています。
〇ファーストインプレッション
4万円が販売価格の開放型ヘッドホンの音色してはまずまずという印象でした。とは言え、モバイルラグジュアリーヘッドホンという仕様用途が理解できていなかった点もあり、定番の名機ヘッドホンなどと比べると今一歩優れる部分も見当たらないという印象でした。
ファーストインプレッションについては過去の記事の方が詳しくので詳しくはこちらをご覧ください。
〇エージングとか
基本的には実際に使用しながら100時間ほど、AGPTEKなどを使ったプレイリストの無限ループにて1000時間程度鳴らし込みました。また、無限ループでは音量を大きめ、小さ目と日によって音量は変更していますし、湿度の多い環境や少ない環境など場所も変更するようにしています。購入してから鳴らし込んでいない時間は部屋の中の大気に曝露させています。というのもヘッドホンは温度や湿度などの変化になじむとも言われているのでその点も意識しています。
肝心の音の変化ですがエージングを肯定したいわけでは無いのですが、最初の200時間程度は特に大きな音の変化があったように感じます。特に音の響きや解放感が良くなり、500時間を超えた頃にはHD600シリーズなどの定番と比べても良いかもしれないという気持ちになり少し時間がかかりましたが今回のレビューの記事になりました。
〇環境とか
M17 -LDAC-> XD05BAL(OPA828) -標準ケーブル-> PHOENIX
M17DC(TankS4) -標準ケーブル-> PHOENIX
11Tpro -LDAC->BTR7-標準ケーブル-> PHOENIX
GV301Q -標準ケーブル-> PHOENIX
iPhone12 ->A1749 -> 標準ケーブル-> PHOENIX
後述しますが上流による音色の影響もある程度は受けやすいのですが、一旦は一般的なDAPと一番近いであろうBTR7のLゲイン環境、標準ケーブルを基準としています。
〇帯域バランス
超低域(サブベース域)は余り出ませんが概ねフラットな帯域バランスです。見た目からサブベース帯域が出るヘッドホンのフォルムでは無いのでサブベース帯域はそれほど気になる方はいないのではないかと思います。
尚、SENNHEISERの様な厚みのある中低域やAKGの様な高音域の美しさの様な言い方であれば明朗で軽いサウンドという言い方がしっくりくるかもしれません。
〇音色(寒暖、明暗、響き、粘度、厚み)
後述しますがこの辺りの印象は上流のアンプの影響を受けやすい様で購入された方の中でも評価や好みが分かれやすい部分だと感じています。
BTR7をベースとすればやや暖かみがサウンドです。明瞭さまでは無いのですが全体的に明るいサウンドです。開放型なだけあり、抜け感とそれに伴う響きはある程度良好ですが見た目ほどの抜け感はありません。特に中域は何故か密閉型にありがちな鼻が詰まったような閉塞感を少しだけ感じます。粘度はややウェットですが重みは無いサウンドなのでよく言えばしっとりしつつ明朗ですが、悪く言えば中途半場な煮え切らない雰囲気を感じるかもしれません。音の厚みは標準的で価格帯を考えれば一般的です。
そこで出力の高い環境であるM17やXD05balを使うと暖さは消えていき概ねニュートラルになるほか、粘度も軽く重みの無いサウンドで明朗な傾向に変化していきます。逆にゲーミングノートパソコンGV301Qのヘッドホンジャックに直刺しすると更に音が暖色傾向が強くなり、好みから外れれば音が籠ったと感じる方もいるかもしれません。もちろん音量は余裕で取れるのは素晴らしいですね。
またどのような環境でも共通する音色の特徴として女性ボーカルのサ行などの歯擦音が刺さる様な刺激的な音は限りなく少ないチューニングだと感じます。その理由もあっていわゆる一般的に言う「聴き疲れ」が少ないサウンドであることも良い点として上げられます。
〇音場(広狭、重心、遠近)
音場は良くも悪くもこの価格帯の開放型に準ずる横に広く上下や前後はヘッドホンとしては狭いというタイプです。重心も一般的な耳の位置の高さで音色はやや近いです。この点も競合機種と比べても一般的でイヤホンの構造的にもドライバも(耳に対して)並行配置なので一般的な音場かと思います。
ただ楽曲によっては他のヘッドホンに比べて音場表現が変化しやすい傾向があるのでその点は注意が必要かもしれません。
素晴らしいのはHi-X65同様に音場に関してはアンプの性能にほぼ左右されないことでiPhoneなどのスマートフォン直挿しでも十分な音場感が得られ、この条件下では競合のヘッドホンより高音質と言えます。
〇定位、音像
定位や音像はこのクラスとしては十分な正確さと音像の掴みやすさではあるのですが、競合と名機達と比べるとやや定位は緩いかもしれません。素晴らしいのはHi-X65同様に定位や音像に関してはアンプの性能にほぼ左右されないことでiPhoneなどのスマートフォン直挿しでも十分な定位が得られむしろBTR7など中途半端なDAPよりも高音質です。当然ながらこれもこの条件下では競合のヘッドホンより高音質と言えます。
付け加えると価格帯としては十分な性能だと感じますがHi-X65などと比べると明確に1ランク以上落ちる印象です。もちろん価格帯も上になる上にモニターとリスニングの違いもありますので概ね価格を考えると順当と感じます。
〇解像度、分離
解像度については競合と比べても十分に渡り合える性能を有しています。特に中域から高域にかけての性能は十分で、分離感も含めて価格帯を考えると優秀です。特に素晴らしいのはHi-X65同様に解像度に関してはアンプの性能にほぼ左右されないことでiPhoneなどの直挿しでも十分な解像度が得られ、この条件下では競合のヘッドホンより高音質と言えます。
とは言えHi-X65などと比べると明確に1ランク以上落ちる印象で、ヘッドホンの解像度に関しては価格帯と鳴らしずらさには明確に相関がある傾向があるのでそこを踏まえてという事は注釈として付け加えておきたいと思います。
〇低域の質について
開放型ということもありサブベース域の量感はかなり少な目です。もう少し上の低域に関しては控えめな量感で、質感としてはやや弾力があり爽やかなタイプです。開放型であるためか抜け感も相まってリリースの印象はそこまで悪くはありません。高域重視のリスニングサウンドと考えればそこまで悪くは無いのですが価格帯としては深さが不足することに加えてアタックがぬるく遅いと感じる場合もあるかと思います。特に開放型ヘッドホンの場合に深い低音を出すことは難しい事を知っていることもあり価格的にも個人的には十分だとは感じます。
ただこの点に関してはケーブルでの改善も難しく、好みにもよりますがイヤホンに慣れた人であればこのヘッドホンの弱点と捉える人もいるかもしれません。
〇中域の質について
量感は十分にあり解像度も十分にあるので普通に良いのですが、中域から低域にかけてやや付帯音が多めでなので混雑した音色になる印象を持ちます。また競合の名機と比べると俯瞰的なのでもう少し個性が欲しいという人もいるかもしれません。
若干乾いた音色と付帯音が多いため近め音像の中域でもなぜかやや迫力に欠けて淡白な印象を持つ人もいるかもしれません。楽器曲だけでも若干分離と解像度が気になるので具かつ一つ一つの音を分解して聴く集中力を要する聴き方ではなく、あくまでも何かをしながらなどゆったりと聴くイメージのリスニングサウンドのバランスなのだと感じます。
特にこの辺りの不満に関してはアンプをより廉価なA1749に変えるとある程度改善しますので気になる方はより貧弱な方向性のアンプを試すと良いかもしれません。ただA1749では楽曲によってはボーカルが遠めに感じる場合もあったのは少し気になりました。
〇高域の質について
標準ケーブルではこのヘッドホンの一番の魅力が詰まった帯域です。量感も十分ながらサ行などの歯擦音が刺さるということも無くシンバルやチャイムといった楽器を自然な音色で鳴らしてくれます。しっかりと存在感があるのですが開放型の特徴でもある音の伸びやかさが相まって刺激音が少なく、あったとしても外に抜けて行くような鳴り方なので快適です。音像が高めことから高域の音色の開放感が上がる感覚があり値段を含めてもなかなか良好だと感じます。
〇ジャンルの得意不得意
比較的目立って苦手と言える楽曲は少ないチューニングのヘッドホンだと感じます。あるとすれば低音が低音のアタックの強さとスピードが要求される楽曲や、サブベース帯域の厚みを要求するような楽曲には合わないと感じました。
■相性について
〇アンプ(上流)による印象の違いについて(重要)
圧倒的に音量は取りやすくイヤホンレベルと言って差し支えありません。iPhoneの純正Linghtning3.5mmアダプタA1749でも半分前後の音量設定で十分な音量が取れます。環境の欄で書いた機材や据え置き機材を複数聴き比べを行いましたが一番良かった環境はiPhoneの純正Linghtning3.5mmアダプタA1749です。このヘッドホンのチューニングとして圧倒的に貧弱な環境を想定していることがわかります。
特に解像度や定位に関してはこのA1749が一番はいのですが音色については上流の影響を受けやすいようです。まずM17では繊細でありながら音色に艶があり、音に疾走感も出て軽快です。音質レビューでややネガティブな感想も書いていますが、ほぼ解消されます。BTR7でも鳴らしすぎ?っと呼ばれる出力が強する相性みたいなものが発生していたのかもしれません。
メインで使っているM17のDCモードのアダプタの変化など上流の小さな変化をこのヘッドホンで聴き比べしたのですが、圧倒的にわかりずらく逆に驚きでした。
結果として環境が整っている人ほどこのヘッドホンを試聴した際の評価が低くなる傾向があるかと思います。確かに上流で音色は良くなったりする場合もあるのですがバランスが崩れやすく全体としてはあまり差は大きくないので素直にアンプは安く手軽な構成を使うか、環境が揃っているのであれば別のヘッドホンの方が良いと感じました。
〇ケーブルによる印象の違いについて(注意)
注意:ケーブルについては科学的に見れば音質の変化に対する決定的な証拠はありませんので、オカルト的な要素を過分に含みます。幸いながら私はイヤホンではケーブルによる音質の変化を強く感じられるのですが、個人差がありますので万人におすすめするものではありません。
いつも通り幾つかリケーブルを試してみた感想を書きます。性能のボトルネックの一つは標準ケーブルの様です。今回2.5mm2極プラグのケーブルは持っていなかったためmmcxから2.5mm2極プラグへの変換コネクタを作成してMMCXケーブルを使って幾つか試聴してみました。
作成した後の1日前後は非常に標準ケーブルが粗悪に感じるほどどれも良い音色に変化した様に感じたのですが、2日後からは順当な変化ぐらいに感じられるようになりました。下記の感想はその変化が少なくなったと感じてからのものを記載しています。これがプラグの品質によるものなのかは定かではないのですが、専用の2.5mm2極ケーブルであれば更に音質が良くなる可能性があります。
〇NiceHCK Blueday 4.4mm
音場の変化も少なく音の傾向もほぼ同じで全体的に解像度が上がります。もともとBluedayというケーブル自体がややドンシャリ傾向で素直に解像度や音場を広げてくれる傾向の素直な傾向なので個人的にはかなり気に入っています。PHOENIXに使用すると音場などの変化は大きくないのですが全体を素直に底上げしてくれ、素直なアップグレード感を感じることができます。
〇iKKO Arc CTU-01 3.5mm
iKKOのOH2に付属しているケーブルです。解像度が1ランク上がった上で中域から低域の音色に暖かみが出て音の整理が上手くなった印象があります。音像が若干上がることで音色の華やかさが出てとても聴き心地が良いです。低音は弾力性がより増すのですが上品さがあります。個人的には中域の表現にはもう少しだけパンチが欲しいと思っていたのでかなり良い組み合わせだと思いました。CTU-01の値段は7000円近いのでOH2を買ってしまうのも手かもしれません。
全体として、リケーブルの効果は十分にありますし、標準ケーブルはタッチノイズが大きいという欠点もあるため可能であればリケーブルすることを検討に入れると良いかと思います。
■所感
1か月近くPHOENIXのレビューをするためエントリー価格帯の様々なヘッドホンを聴き直したりしたのですが、上流のアンプがApple A1749が一番合うという事に気付くのに多くの時間を費やしてしまいました。けれどそれ以上にA1749で聴くPHOENIXのサウンドは抜群です。
Hi-X65もそうなのですが現代の音楽環境はノートパソコン一つで作曲できたりするようになりました。そうなると自宅のDTMの良い機材を使うというよりは鳴らしやすいリーズナブルに環境できるというヘッドホンが重要になる・・・という一種の環境適応の様な変化が起きているように感じます。
もちろんPHOENIXがM17の様な高出力の据え置き機器で使うことは間違いでも何でもないのですがその場合は別の選択肢の方が幸せになれるかもしれません。価格帯が同じであれば例えばもう少し強力なポータブルアンプや据え置き機材を持っているのであればHD600シリーズやK700シリーズが最適ですし、さらに高出力の環境を持っているのであればAudioTechnicaのR70xや、HiFiMANのSANDRAなどは更に高解像度で圧倒的な音楽性を楽しむことができます。ただしこれらはインピーダンスが470Ωなど正にけた違いの鳴らしずらさ故に知っている人は評価しているけれど爆発的に売れているという話は聞きません。
その点PHOENIXの鳴らしやすさと手ごろな環境で良い音色を楽しむという意味では素晴らしい選択肢になると感じました。USBからの3.5mm変換アダプタなども一緒にヘッドホンケースに入れておけば鳴らせない環境は無いと言って過言ではないと思います。そして何より数万円のヘッドホンを買った時の感動を味わうと言う意味では木のハウジングを基調としたこのデザインや本体と付属品含めた所有感は素晴らしく、多くの方に勧められる品質です。有線で鳴らしやすく、モバイルが容易、高音質、見た目がラグジュアリーこれらを満たすヘッドホンのライバルは同価格では見当たらず、これらの要素を求めている方であればPHOENIXは第一の選択肢になると思います。
有線以外のライバルを考えるとどう考えても浮かんでしまうのはBTヘッドホンですが、実際BTはかなり便利にはなってきていますがどうしても新しい機材との接続となると相性などの不安材料が付きもので接続できなかったり繫がっても不安定であったりと絶対に音を聴きたいという場面では有線の便利さと信頼性が高いのは言うまでもありません。もちろんBTヘッドホンも4万円クラスとなると有線接続できるものもありますので今後の期待としてはSIVGAのBTヘッドホンなども期待したいですね。
気になったのはBTR7でさえ鳴らしすぎのような症状があったことで、上流の変化に敏感なところがあるようなので試聴された方でイマイチと感じた方で高出力なDAPを使われている場合は、Appleの3.5mmアダプタなど低出力な環境で聴きなおされると良いかもしれません。
■結論
PHOENIXは今までありそうで無かったモバイル可能かつリスニング用途、そして開放型、ラグジュアリー、鳴らしやすいというコンセプトを持ち、音質も高いクラスまで纏められたヘッドホンです。斬新なコンセプトでありながらヘッドホンとしての音の完成度も高い上にビルドクオリティなどコンセプトに必要な最低限の要素を大きくクリアしています。
スマートフォン直刺しでも高音質となるとこの価格帯では他に目立った競合も見当たらず、このコンセプトのヘッドホンを探している方はPHOENIX一択と言って良いほどオススメできます。
また、試聴された方でイマイチと感じた方で高出力なDAPを使われている場合は、Appleの3.5mmアダプタなど低出力な環境で聴きなおされると良いかもしれません。尚、現在の円安情勢では海外の価格は48000円程度(2022.10.21現在)なるためamazonの40000円の価格はこのコンセプトを探している人にはお買い得かもしれません。
〇最後に
この様なレビューの機会をいただけましたSIVGA様には改めて感謝申し上げます。ではまた明日。