こんにちは
こんにちは今日はとある方からお借りしたKBEAR 朱雀 (Rosefinch)のインプレ(簡易レビュー)です。
■動機付けなど
逆相の不良品を購入してしまったかもしれないとのことでお借りしました。実際に音を聴くと確かに逆相接続の方が一般的なイヤホンの音場と同じで、正相接続をすると逆相の音がしました。他の個体を持っていないので断言はできませんが、確かに逆相の個体なのですがケーブルを逆相で繋げば普通に使えます。と言うことで折角おかりしたのでインプレを書くことにしました。
■SPECとか
Amazonのサイトなんかをご覧ください。なんか薄い振動版使っているらしいです。あと残り4つイヤホンが出そうな名前ですね。
■箱とか付属品とか本体とか
〇筐体
左から朱雀、KZ ESX、CCA CRA+です。
サイズ感は似たような感じでしょうか。上からCRA+、ESX、朱雀です。Rosefinchの商品名の後にLRの記載が小さくあります。
本体
1DDが透けて見えますね。また、DDの内側、外側の両方にベントがあることがわかります。
・ステム、リケーブル端子
ステムは一般的な大きさですね。2pin端子はNX7タイプです。フェイスプレートは薄いヘアライン加工がある鏡面なので美しさと傷の目立ちにくさを両立していると思います。実際の上の写真でも角度を付けると全反射しています。
・重さ
実測で朱雀が6.5gでした。CCA CRA+ が5g、KZ ESXが8gでしたので重さとしては平均的でしょう。
〇ケーブル
しなやかで柔らかいケーブルですが、絡まりやすく、癖が付きやすいケーブルなのであまり使い勝手は良くありません。価格帯を考慮しても最低限度の品質のケーブルが付いていると考えた方が良さそうです。
・重さ
ケーブルのみで実測13gなのでかなり軽いです。
・クロストークチェック
聴感上問題になるレベルのクロストークはありませんでした。
〇イヤーピース
お借りしなかったので不明です。
〇寝ホン
意外と薄いこともあり、内側のベントで空気も抜けて問題なく寝フォンできました。快適とまではいきませんが問題ありません。
〇遮音性、ノイズキャンセル
遮音性はあまりありませんが、イヤホンの傾向として低音が強いので外音に負けない音量で聴けます。
〇ホワイトノイズ
私の手持ちの機材では気になりませんでした。
〇その他、総評
お借りしたものなので全て確認できていませんがこの価格帯の中華イヤホンであれば標準的なものだと思います。
■音質について
〇ファーストインプレッション
標準ケーブルでまず聴いた時に一瞬で「逆相の音!!」っという感想になってしまって音の感想が後回しになってしまったのですが。標準ケーブルが逆相かをチェックする過程で銀月やZebraなどにリケーブルして正相、逆相チェックましたらあまりに音が良くて吹き出しそうになりました。
なので標準ケーブルの音というよりリケーブルした朱雀の実力がかなりエグイという感想になっています。(注)逆に言えば標準ケーブルの印象はかなり悪いです。
ライバル機種として浮かんだのは写真にも登場しているCRA+やESXでしょうか。
〇エージング(バーンイン)
借り物なので不明です。
〇環境とか
Xiaomi T11Pro -LDAC-> BTR7 -標準ケーブル-> 朱雀-> SpairalDot++
M17DC -標準ケーブル-> 朱雀-> SpairalDot++
GV301Q -標準ケーブル-> Aiyima H1 -標準ケーブル-> 朱雀-> SpairalDot++
上流についてはやはり良ければ良い程伸びるタイプですがあまり大きな差はありません。本来であればリケーブルした状態のインプレを書きたいところなのですが標準ケーブルで書くのが筋かと思いますので標準ケーブルのインプレです。
尚、本体が逆相でしたが正相状態で聴いています。
〇帯域バランス
低音が強いドンバランスでしょうか。それ以外の中域と高域は標準的なバランスです。とにかく低音の響きが強く音場内全域を埋め尽くす勢いです。幸い分離が良いのでそれほど被らないので聴けるのですが低音が苦手と感じる方はかなり音量を絞って聴くことをおすすめします。
帯域バランスとしてはESXが近い印象がありますが、朱雀の方がサブベースまで出ており、ベース帯域がしっかりとしているESXという違いがあります。
〇音色(寒暖、明暗、響き、粘度、厚み)
やや暖色系の音色です。明るさはほぼニュートラルですがやや暗めと感じる人も多そうです。響きは特に低音が量感が多いため豊かに感じやすいですが中~高域の響きはややデッドな印象です。粘度はややウェットで、音の厚みはDDとして一般的だと感じます。
競合イヤホンと比較すると全体として低音の膨らみ具合は似ているのですがESXはよりドライで爽やかな音色で、さらにCRA+は低音の量感が抑えられバランスを整えた爽快さがあります。そこに比べると朱雀は最も低音が強くどっしりとした重量感がある濃密なサウンドです。
〇音場(広狭、重心、遠近)
音場は横に広さがあるタイプで前後や上下は普通なので価格を考えれば概ね良好です。重心はやや低めで目と鼻の間ぐらいに定位する楽曲が多いです。近さは平均的なので適度な迫力と俯瞰性を持っています。
音像が高く音色が軽めなCRA+やESXと比べると音場を満たす音像の豊かさが長所になるかと思います。
〇定位、音像
音像の掴みやすさ定位については値段なりかやや良いという印象です。特にこれだけ低音の量感に包まれるとかなり音像が掴みにくくなることが多いのですがしっかりとしている点はこのクラスで素晴らしいと言えるかもしれません。定位については良いものの場所の正確さはイマイチですがこのクラスのイヤホンでは大体がそうなので問題にするほどではありません。
〇解像度、分離
解像度、分離に関しても価格帯を踏まえると良質です。高域にかけてやや解像度は落ちて行く傾向はありますが価格帯を考えると十分な解像度だと思います。
〇低域の質について
低音の量感は圧倒的で頭の中に全てに響き渡るほどの音圧です。ここまで低音がパワフルなイヤホンはKZなどの中華イヤホンを探しても中々に無いレベルだと感じます。特に強く感じるのはベース帯域なのですがサブベースもしっかりと出ている上に価格を考えればブーミーさは少ないのでそこを気に入るかが分かれ目でもあるかと思います。
尚、量感が多すぎると感じた場合はボリュームを絞るか(*注意)リケーブルするとちょうどよいバランスにできるかもしれません。
〇中域の質について
中域はやや暖色傾向の音色も相まってこのイヤホンの得意とする帯域だと感じます。ボーカルなどの音色は解像度と生感のバランスが良く、ポップスなどに良く合う様に感じます。ただ、どの帯域にも言えるのですがケーブルの品質とのバランスが悪く、標準のままですと解像度や明瞭さが不足しており、イマイチ抜けきらない中域と感じると思います。
〇高域の質について
量感や質感共に普通の高音域ではあるのですが楽曲にもよりますが歯擦音などは刺さりやすい傾向があります。圧倒的に強い低音域の中ではある程度存在感はあるものの量感が少なく物足りないと感じる人も多いと思います。(*注意)しかしながらこれはどうやら標準ケーブルの傾向の様でこの辺りの表現が気になる場合はリケーブルすることをおすすめしたいです。やはりどうしてもこの価格帯のイヤホンに付属するケーブルの品質としては高域の表現は苦手なことが多いためこの点については宿命のようなものだと思います。
■測定とか
〇SPL周波数特性グラフ
まずは同じハーマンターゲットを参考にしたHM20と1KHzでAlignしたグラフがこちらです。
HM20に比べても8KHzのピークを除いた中域、高域が少ないにも関わらず低域は多いというグラフになっていることがわかるかと思います。
続いてCRA+とESXとの比較がこちらです。
両イヤホンと比べても朱雀の8KHzのピークの高さ、低域の強さが印象的ですね。
■相性について
〇ジャンルの得意不得意
リケーブル無しで考えると低音全体が強い音圧なので低音が映える楽曲が合います。そして小音量で聴いても低音の存在感が無くならないことから寝フォンや小音量で聴くながら作業、低音の強さから外使いで聴く楽曲に合うと思います。
リケーブルを前提に考えるとかなりジャンルは広がって自分好みに変えられるポテンシャルがありますが低音は相変わらず強めではあるので低音主体の楽曲には良く合います。。
〇アンプ(上流)による印象の違いについて
あまり大きく変わりません。ある程度上流の違いを反映しますが大きく変化する傾向は無い様に感じます。
〇ケーブルによる印象の違いについて(注意)
注意:ケーブルについては科学的に見れば音質の変化に対する決定的な証拠はありませんので、オカルト的な要素を過分に含みます。幸いながら私はイヤホンではケーブルによる音質の変化を強く感じられるのですが、個人差がありますので万人におすすめするものではありません。
いつも通り幾つかリケーブルを試してみた感想を書きます。傾向から低域よりも中域高域が映えるケーブルを幾つかチョイスしています。
〇デフォルトのケーブルについての補足
正直、クロストーク無く音が鳴る最低限度の品質を持っているだけのケーブルだと感じます。使われているダイナミックドライバと筐体の能力を発揮できるは力不足だと感じます。1000~2000円クラスのケーブルと比較しても音色は痩せて、解像度は低く、音に濁りを感じます。このイヤホンを購入したのであればリケーブルを試した方が良いと断言できるほどです。
〇BIGMANGO Zebra 4.4mm
低音の量感が減った上でアタックリリース共に引き締まった印象があります。高音域から中音域の音色の鮮度が上がり全体的に明瞭な音色に変わります。解像度が2段ほど上がった上で低音のボワつきや不要な響きが抑えられます。音場の前後感や上下もやや拡張されることに加えて、低音の不要な響きが抑えられたためか全体の定位や音像の掴みやすさが向上します。音像がやや近くなる上に女性ボーカルの高音の伸びなども良くなるのでかなり気に入りました。
元々Zebraは中高音を伸ばす傾向があるケーブルなこともあり、低音が強すぎる朱雀とはかなり高相性だと感じました。Zebraリケーブルした朱雀はコストパフォーマンスも高く価格帯でもかなり上位に食い込める実力があると感じます。
〇JSHiFi 銀月
これもまた高相性なケーブルだと感じます。価格がイヤホンを上回ってしまうので気になる方もいるかもしれませんがが一度は聴いてみて欲しい組み合わせかと思います。銀月の中域~高域の音色の豊かさ、生々しさ、音の立体感が低域が強い朱雀に下支えされることで生々しいボーカルの音色を手にすることができます。特に音像が近くなることが銀月の特徴ですがその特徴が朱雀の長所と弱点をうまく補い合うことで見事なボーカルイヤホンに変わります。
この銀月は少し値段がはるケーブルではありますが音色の変化がはっきりと実感しやすいこともあり、初心者にもおすすめできる素晴らしいケーブルだと感じます。
〇TRIPOWIN Jelly
結論からいえばあまり相性が良くありませんでした。音像が少し遠くなって俯瞰的になります。解像度や音色の艶感がアップして響きが良くなる印象はあるのですがJellyのケーブルは3500円ほどしますのでもう少し良い効果を期待してしまいます。先に紹介した2つのケーブルより若干曇った音色になるのであまりぱっとしないことも相性の悪さを感じます。
結論としてもぜひリケーブルしてみて欲しいと感じるイヤホンだと思います。
〇イヤーピースによる印象の違いについて
デフォルトのケーブルかなりイマイチなのでここからは銀月をデフォルトに変えてイヤーピースの変化を試してみました。
○JVC SpiralDot++(音場、高域、低域重視)
今回のデフォルトイヤーピースです。
○Spinfit W1(中域、低域、解像度重視)
サブベースの量感は少し減って大人しくなる点や中域の音色がシャキシャキとはっきりするのでこれはこれでありですが、音場が上下左右ともに狭くなる傾向があります。音色が明瞭になる方向性ですし、個人的にはありです。ただ、イヤホンの値段も考えてコストパフォーマンスを考えるとそこまでという気もします。
○Moondrop 清泉 Spring Tips(中域重視)
低音の量感が減ってくれるので個人的には好印象です。音像が若干俯瞰的で音色に透明感が出てくれるのも良い点だと感じます。一方で低音の質感がブーミーな方向に行くので相性としては微妙な感じがします。
○AZLA SednaEarfit Vivid(コストパフォーマンス重視)
デフォルトのイヤーピースが合わないときに使う分には十分なイヤーピースだと感じます。個人的にはもともとのイヤホンの低音が目立ちすぎる傾向は引き継いでしまっているのでもう少し減らしたいと思うバランスですが、コストパフォーマンスは高いのは健在だと感じます。
○Acoustune AEX50(低音削減)
最も低音の量感が減ったのはこのAEX50です。想像以上に中域に艶と迫力が出ることに加えて高域の刺さりやすさが増えてしまう欠点はあるのですが低音が更に減ることで音色のバランスが良い方向に行きます。個人的にこのイヤーピースがベストバランスだと思いました。
■競合機種との比較について
注意:ケーブルについては科学的に見れば音質の変化に対する決定的な証拠はありませんので、オカルト的な要素を過分に含みます。幸いながら私はイヤホンではケーブルによる音質の変化を強く感じられるのですが、個人差がありますので万人におすすめするものではありません。
○KZ ESX
KZ ESXとはチューニングは異なるもののかなり良い勝負だと感じます。ESXが低音重視でありながらもバランスも優先したスッキリとした音色なのですが、朱雀は全体としても低音のパワーに振り切ったチューニングです。デフォルトのケーブルはどちらも品質がイマイチなのですがより深い低音と高域を表現しなければならないという意味では朱雀の方が若干不利な状況だろうと感じます。
また、リケーブルした伸びしろについてもはほぼ同等ではあるものの銀月との相性だけで言えば朱雀の方が伸びしろを感じます。バランスを求めるならESX、唯一無二のサウンドを求めるなら朱雀という選び方が良い様に思います。
○CCA CRA+
デフォルトの状態で比べればCRA+の方が圧倒的にバランスが良く価格の差を見せつけられます。CRA+の低域のハッキリとしたサウンドに加えて高域が煌びやかで万人受けしやすいバランスは見事です。
一方でリケーブルを前提で考えると差は無いと言っても過言ではありません。CRA+の問題は高域の楽器の音色でこのクラスのイヤホンでは仕方がないのですがチャイムなどの鈴の音がシャリシャリしてしまいます。このため銀月をベースに考えると朱雀の方が上回ります。ケーブルは相性だとも言われますがCRA+には高域も伸ばしてくれるケーブルは合わず逆に中域、低域を伸ばすようなケーブルが合うかと思います。
■所感
ざっと朱雀を聴いてみましたが、確かにリケーブルを前提としたイヤホンの完成度としては非常に高く、リケーブルでの楽しさを実感しやすいイヤホンだと感じます。
気になるのは逆相だったことだけで、両側が共に逆相ということがありえるのか不安です。ちなみに今までケーブルが逆相ということはありましたが本体側が両方逆相というイヤホンは初めてです。
また、ハーマンターゲットを意識したとありますがKZ同様にハーマンターゲットの雰囲気をまったく感じません(笑)。私の拙い理解では基本的にハーマンターゲットは大多数の人が好ましいと感じる(概ね弱ドンシャリの)帯域バランスを示したものなのですが、そこにKBEAR独自の超絶な低音が盛られているイメージです。ニュートラルではないのは当然ですがなにか人間工学的なとりあえず中華イヤホンとしてハーマンターゲットの名前が流行っているからハーマンターゲットって名前を宣伝文句に書いておけ!っというノリを感じます(笑)。
■結論
朱雀は逆相な事を除けば基礎能力と低音再生能力が高い非常に良いイヤホンでした。お借りした個体が逆相なのでそのままでは評価はTier4ですが逆相でないことを前提とすればTier3、リケーブルを前提とすればTier2ぐらいになるのではないかと思います。かなり上級者向けにはなりますが、リケーブルさせた音色はこの価格帯ではなかなかに聴けない音色ですので是非色々試してみると面白いイヤホンだと感じます。
〇Pros(優秀な点)
イヤホンの基本能力が高くリケーブルなどが楽しめる
素晴らしい低音再生能力
寝フォンなどの小音量や、外使いに最適な帯域バランス
〇Cons(微妙な点)
付属ケーブルの品質が低い
逆相不良(個体不良?)
低音が強すぎる
■Appendix
〇測定環境
ハードウェア:Apple Macbook pro 15 Late2013 BigSur11.6.4
ソフトウェア:REW V5.20.13
INPUT:MOTU M2 IN1 XLR (VXLR+)192KHz24bit
OUTPUT:MOTU M2 192KHz24bit 3.5mm変換
カプラ:IEC711クローン 刻印( IEC60318-4 Type E610A)※100〜10KHz用
イヤーピース:Final TypeE Black Mサイズ
〇測定パラメータ
入出力バッファ512K、Acoustic Reference
出力音圧レベル:−12dB
Length:2M(10.9sec) 、192kHz、0〜20,000Hz