el_snowの日記

日常の気になった事や思う事、気に入ったオーディオ機材のレビューを思うままに書いています。

絶対王者?NICE HCK. フラグシップIEM lofty レビュー 結論:NiceHCKの堂々としたフラグシップイヤホン

タイトルの通りです。

Twitterで発売日前に公式アカウントが絶対王者と言いまくって批判も出ていたNICE HCK. の新作フラグシップIEM loftyを買ってみました。

 

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値段はAliexpressで約24,500円で到着まで5日ほどかかったでしょうか、Amazonでも2万円後半で売られています。Aliexpressの場合は到着まで時間がかかることと補償関係が面倒なのでトラブルの際に自分解決する自信の無い方はPrime配送も使えたりするAmazonの方が無難かと思います。

 

 

NiceHCKなのかNICEHCKなのか表記が二つあるのでどちらが正しいのかわからないのですが、NiceHCKについて私が知ったのは大体1年ほど前でしょうか。当時はIEM関係を売っていたイメージは無く、どちらかというとハイコストパフォーマンスの低価格リケーブルを売っていた会社だったかと思います。

あの当時にケーブルを売っていたメーカーが最近は良くIEMを売るようになってきているのは時代の流れでしょうか、やはりイヤホンという商品自体がケーブルを作ってフィードバックをしている内にIEM自体に手を出すという話はよく聞きます(CAなんかもそうですね)。ケーブル自体についても1年前に買った時のケーブルはあまり品質が良かった記憶は無いのですが、つい最近Blogには上げていませんが買いなおしてみるとかなり品質が上がっていて驚いた記憶があります。様々な分野で中国という国内ブランドのプロダクトの品質がここ数年で急激に上がっているのを実感していますが、NiceHCKもそれに漏れずケーブルなどの分野についても同じような印象を持ちます。

というのも実際問題イヤホンのほとんどの生産は中国国内で行われていますし、最近の人気のDAPは中国メーカーであり、そして中国国内で生産されています。商品のプロダクトを一度でも作ったことがある人であればその地の利は言わずともがなですが、すり合わせでものを作るときに重要なのは、その試行錯誤の回数です。もちろん優れた人材や技術が必要なのは言うまでもないのですが、近年DAPやアンプが実質的に評価されディファクトスタンダートになりつつあり、それによりすべてのオーディオ要素が中国国内にそろい始めたことはオリジナルの作り出せる土台が整ったということだと思います。もちろんそれぞれの老舗の音響メーカーにはこれまでの知財やノウハウがあり、そうやすやすと後塵を拝することは無いと思いますが、日本の一技術者としては新しい時代の変化を脅威ととともに実感せずにはいられません。

また、今回は振動版にピュアベリリウムを利用しているということも宣伝されており、その点も大きな注目を集めていました。ピュアベリリウムといえばオーディオ用には理想に近い素材の1つとして知られており、高級オーディオ用素材として利用されていることで有名ですが毒性を持ち、製造することが難しく低価格な商品に利用されることは稀です。ただ、絶対に低価格で使えないかというとそういうわけでも無いようで15年ほど前にもXaomiがPistonという5000円以下のイヤホンにベリリウムを採用しています。最近ではfinalのA8000が先駆けてピュアベリリウム振動版を採用し、独特の音を実現したということで国内のポータブルオーディオ界隈では大きく有名です。またその後、中国のメーカーから同じ様な?ピュアベリリウム振動版を使った?という噂が出るぐらい似た音?機種believeが中国kbearから発売され、即販売終了となったことも話題になっています。そんな中、NiceHCKも同じようにピュアベリリウムを採用し、中国では絶対王者という称号を謳えるほど絶賛されたという触れ込みで先日、日本販売が開始されたのです。正直私としてはk3003でほぼ理想の音を得ており、オーディオはほぼ上がりなので特に日本製ではない高い機種を買うつもりはなかったのですが上記のような背景を考えると少し興味が沸き、購入するに至りました。

さて、前置きが長くなりましたがこのNiceHCK loftyその実力を聴いてみました。

 

一応ADI2DACfsなど様々な環境で聴いてみたのですが

基本的な環境は下記とました

iPhone12ProMax -> Q5sTC -> lofty(4.4mm標準構成)

 

良かった点

まずは音質面についてですが、解像度、音場、基本性能は価格としては十二分に高いように思います。驚くのはその帯域バランスです事前に公開されていたF特性ではおおむねフラット寄りとアナウンスされていたのですが、聴いてみると非常に低音域が強くドンシャリというよりドンっという雰囲気です。この低音は非常に質が高く強く激しいのですが、整然としていてキレが良いく音が出るときの立ち上がりも早く感じます。特にロックなどのギターサウンドなどを聴いていると非常に心地が良く、弦を弾く音色は艶めかしく、ベースラインは深みと清涼感を両立させています。シンバルなどの音色に耳を傾けるとバランスとしてはかなり弱いのですがしっかりとした解像度を持って鳴らしているので分解能が無いというわけではなさそうです。ボーカル域はややハスキーな印象がありますが、刺さるほどではありません。絶対王者と名乗るからにはもう少し特徴が欲しかったように思いますが、この値段のクラスとしては十分な表現力とは思います。

音場としては前後やや狭いですが左右はこのクラスにしては十分以上な広さを持っており、ボーカルや楽器はやや近い印象を受けます。特に位相についても自然でオーケストラなども悠々と聴くことができました。特に合唱部などの複数の声が重なる部分でも十分に解像度を隠し持っているためか分離感よく聴くことができたのは少し以外でした。

 音色についてはあまり寒色系、暖色系という言葉は好きではないのですが、間違いなく暖色系の音色のバランスに仕上げてきています。少なくとも高域の音が目立つことは無く、ここまで読んで気づかれている方も多いのですが、同じピュアベリリウムを使っていると言われているA8000などと大きくバランスが違います。A8000が目指したのは質の良いホールで音楽を聴いたときに透明感があり綺麗に美しく減衰していくトランスペアレントな音色であり、その過程でベリリウムを採用したとありましたが、このloftyについてはそのベリリウムの特徴を低音のキレを上げるために使ったような印象です。とにかくオーケストラの中でもやはり低音を響かせるティンパニーやチェロなどの音色がより強くそして整然として、鮮烈に聴くことができていると思います。同価格帯の碧Ti3Balなどの比べても低音の表現は歴然としており、loftyに変えると団子のように固まっていた楽器達を悠々と聴き分けることができるようになります。特にこの低音のキレの良さはアンプをADI2DACfsに変えたときにより強く現れ、いくつかハイエンドイヤホンを持っていますが、ここまでキレのある低音を聴けたのはこのloftyだけだと思いました。

 そしてこのイヤホンに一番合う楽曲は何かと聞かれれば、私はロックと答えると思います。正直このクラスの価格帯で聴くということにかけて正直右に出るイヤホンはないのではないかとも思います。中華特有の圧が強いサウンド傾向を持ちながら中低音の凄まじいキレはロックミュージックの楽器の音をとにかく元気に奏でてくれます。そのうえで濁りがちな楽器たちをよくよくフォーカスを当ててみるととても粒立ちが良く解像度が高いため、圧が強いのに見通しが良いという不思議な感覚を覚えます。低音の強さと圧がありダイナミックレンジ感が低いサウンドは中華イヤホンで表現されがちなゴリラサウンドの正統進化系の一つなのではないかと思いました。

 

続いて音質以外の面についてですが

やはり良かったのはイヤーピースとケーブルの品質がフラグシップに相応しいことです。大体の中華イヤホンにありがちな、イヤーピースがペラペラ、フジツボの形をしているということが無く、非常にフィット感の良いものが付属しています。水月雨のillmination光なんかもフラグシップでありながらゴミ()のようなイヤーピースが付属していてがっかりした覚えがあります。loftyに付属しているものは見た感じ、付けた感じはAET07ですが、似たものなのか同じものを採用したのかはわかりません。ただ、AET07と同じフィット感ですので初めて中華イヤホンで付属イヤピースを利用できました。

続いてケーブルです、こちらは写真の通り中華では珍しい布張りのケーブルが付属しています、若干重さは感じるので取り回しが良いまではいかないのですが、絡まりにくく質感も良いため意匠としても非常に優れています。また布のおかけがタッチノイズも少ないです。同社のフラグシップケーブルであるspacecloudは普通のケーブルなのでぱっと見の高級感はlofty付属のものの方が上回っています。ただ、ケーブルバンドはマグネット形式なのですが、これがいろんな機材にくっついてしまうので普通のタイプの物の方が良かったですがこれは人によるかもしれません。また、ケーブルのプラグのタイプを購入前に選べるところもうれしいポイントでした。よくフラグシップでは3.5mmのみか、ケーブルの途中で複数の端子を選べるものがありますが、結局接点が増えているため、せっかのバランス接続や4.4mm端子など接点抵抗を減らす仕組みもそれでは意味が無いです。実際に使うのはプレーヤーにあった端子だけだったりするのでこの方式の方が私は嬉しかったです。

最後にビルドクオリティです。非常に精巧にできており、とても2万円台のイヤホンには見えません。中華のクオリティは日に日に向上していると言われていますが、このイヤホンも例に漏れず非常に高いクオリティで作られている点は所有欲を満たしてくれるように思います。

 

 

続いて悪かった点について書いていきたいと思います。

 

音質について

やはり、これは中華にありがちなゴリラサウンドの系譜に連なるというところではないかと思います。低音が強く、そして圧が強い、派手ではあるのですが、目の前に音が迫ってくる感覚はやや暑苦しさを感じます。特に高音がやや抑えめにチューニングしてあるため、曲によってはややこもった印象をもつ場合もあります。特に同じピュアベリリウムドライバを採用しているfinalのA8000やkbearのbelieveの様な方向性をイメージしていた人にとってはまるで逆方向の音作りは求めているものではない可能性があります。特にオーケストラでは音色は十分に良く音場も広く見通しも広いのに解放感が無いという折角の演奏を潰しているような鳴り方をする点も気になります。

また中華にありがちなダイナミックレンジ感の低さも気になります。フラグシップと比べるのは酷ではありますがA8000やFW10000などのフラグシップの名機達が静寂の中から楽器たちの音色が浮かび上がるような鳴り方するのに対して前後感の無い中で前方に迫りくる鳴り方をするため、面白さに欠けてしまいます。この辺りは同価格帯の碧Ti3Balなどの比べても実は遜色は無い程度なのですが、この価格帯では異例とも思える解像度の高さからくる期待感で比べてしまいます。

続いて中低域が強い帯域バランスについても少し言及しておきたいと思います。はやりこの「ドン」というバランスはやや魅力に欠ける楽曲、楽器パートが出てくるように思いました。お手本のようなドンシャリバランスの碧Ti3Balと比べるとスイートスポットが狭いのは少し難点にだと思います。やはり弱いのは高音域で、フルートなどの高音を担当する楽器は解像度は高いものの響きは弱弱しく、伸びず、気持ちよさに欠けます。この辺りは碧Ti3balのバランスが大好きな私にとってはかなり劣る部分と思いました。楽曲の向き不向きを総括すると、このバランスはロックは最高によく聞こえるのですがそれ以外の曲ではややこもった印象を持つ場合も多いのではないかと思いました。ただ、ハイエンドイヤホンというのは1本でバランスの優れたものというより、少し尖った音を出す機種が多く、それがNiceHCKが狙ったものだとすれば非常に面白いと思います。

 

音質以外の面について

まず、気になったのはやはりケーブルです、非常に意匠にも優れ、質感も良いのですが、太く、重量感があります。Shure掛けする前提のIEMですのでそれほど気にはならないのですがはやり普段使いする分には軽いに越したことはありません。

そして長時間使用してみて問題になったのがIEMの形状です。DQ6などの機種でも問題のなったのですがイヤホン自体が大きいことに加えて内側に突起があり、その部分が当たって痛いのです。もちろん寝フォンなどもできません。中華メーカーのイヤホンなので易々とはは試聴できませんし、試聴できたとしてもこのでっぱり自体は長時間付けなければわからない点かもしれません(私がそうでした)。また、上記にも関係するのですが一般的なIEMに比べてステムが短いことも気になりました。これは「ステムが短いのでちゃんとフィットさせるために奥に押し込む必要があり、押し込むときに突起の部分が当たる」ということです。音色のバランスがかなり低音に寄っているにもかかわらずフィットさせずらいため、ちょっとしたIEMの接触バランスで低音の音像が変化しやすく、聴いている際にも手で押さえている必要がありました。ただこれはもう少し軸の長いイヤーピースに交換すれば突起が当たることが無く上記とともに解決できるかもしれません。

また、NiceHCKの宣伝手法についても気になりました。もちろん販管費も無く知名度が無い中でのイヤホン販売というのはある程度騒ぎを起こしてでも話題にしてもらう必要があります(でなければ売れない)。このため、日本のTwitterアカウントでは他のメーカーフラグシップを引き合いに出して絶対王者と名乗る暴挙に出ました。これは私としては営業戦略の一環として理性では行動原理が理解のできる行動ではありますが、問題行動の一種であることに変わりはありません。問題にすること自体が売り手の術中に嵌っていることになるのですから問題です。なかなか難しいとは思いますが別の手法で先行的に試聴を実現させるなど、別の販売戦略に切り替えていってほしいものです。

そして売り方も気になります。Aliexpressで販売アナウンスをした後にAmazonで販売がアナウンスされたのですが、残念ながら先にアナウンスされたAliexpressの方で購入した人たちはAmazonよりも後に到着することになりました。最速でほしいが故に、「NiceHCK社を応援したいが故に」Aliexpressで注文したにも関わらず、Amazon注文に着弾で遅くなるというのは若干の理不尽さを感じました。こういうことが続くのであればAliexpressでのアナウンスはスルーしなければならないことになります。今後はAmazon販売の予定も含めてアナウンスをしてほしいと思います。

 

まとめとして

ここまで読んでお気づきだとは思いますが、私としてこのイヤホンはとても名だたる他社のフラグシップを蹴散らすほどの絶対王者とは思いませんが、2万円後半のイヤホンとして、NiceHCKのフラグシップとして十二分に高音質かつかなりコストパフォーマンスの高いイヤホンだと断言できると思っています。特に碧Ti3Balとも十分以上に戦え、明確に上回る特徴を持っており、本国で絶対王者という感想を持つ人もいるのも頷けると完成度だと思いました。当然、全体のクオリティとして広告戦略として比較に出していたフラグシップイヤホンたちに勝てるとは私は思えませんでしたが、これを2万円台で「非常に強く激推しできる」という言葉で語ることもできます。

また、A8000以降、ピュアベリリウム採用のイヤホンの発表が続いています。ネットの噂では廉価なピュアベリリウムドライバーを製造できる工場ができたのではないかと言われています。事実であれば今後ピュアベリリウムを使った2万円台付近のイヤホンがいくつも出てくることになり、もしかしたら今後はそんな中に埋もれてしまうのかもしれません。そうだとすれば、新しい新時代の幕開けに発売されたイヤホンの一つとして一聴する価値はあると思います。もしそうでないとしても、この鮮烈かつ高解像度な低音を実現するイヤホン単体の価値は少なくとも一聴する価値があるように思いました。